今回は、院内勉強会で話した内容を掲載します^^
昨今、創傷部(傷口)に対する消毒と治療の考え方が、少しずつ変わってきています。
「細菌がいること」と「細菌感染を起こしていること」は、厳密に言うと違います。例えば、皮膚には皮膚ブドウ球菌という常在菌がいますが、皮膚にブドウ球菌がいるからと言って、必ずしも感染を起こしているわけではありません。もっと言えば、腸の中には大腸菌や乳酸菌、その他沢山の細菌が生息していますが、だからと言って腸が細菌感染しているとは言わないのと同じ事なのです。
もし、体の表面に傷が出来るとします。すると、周囲の皮膚から常在菌が移動してきて、創面に侵入します。無菌の傷というのは存在しないと言っても良いですから、どんなに洗っても消毒しても傷には必ず「細菌がいる」ということになります。
パスツレラ菌や緑膿菌などの特定の病原菌を除き、通常のブドウ球菌などで組織が感染を起こすためには、通常、組織1g中に細菌が10万個〜100万個必要だと言われています。実際には、細菌の数がこれより少ないときでも感染を起こすことがあります。それは、傷の中に「異物」が存在するときで、異物には、土や泥、植物片、食べカスや口腔内汚染物などが含まれます。創内に異物があるとき、組織1gあたりの細菌数が200個程度でも、十分感染を引き起こすことが可能になります。
創傷部を消毒したときには、これと同じことが起こります。消毒によって傷の表面の細菌は一時的にいなくなりますが、数分たって消毒の効果が切れると同時に、周囲の皮膚に分布していたブドウ球菌などの常在菌が創面に移動し、このとき、異物が存在すれば、傷は元のように感染状態に陥ってしまうということなのです。
結論としては、傷を乾燥から防ぎ、消毒などによって傷部表面を傷付けない限り(消毒が悪いという訳ではないのですが、過度な消毒は組織の細胞を痛めつけることがあります)、傷に細菌がいても感染を起こさずに治っていくのです。
このように、「細菌は存在するが感染ではない状態」をColonization(コロニー形成)と言い、Infection(感染状態)とは明確に区別します。 例えそこにいる細菌がMRSAなどの悪名高い耐性菌だったとしても、感染を引き起こしていない状態があるわけですから、過度な消毒や抗菌剤の投与が無意味どころか害を及ぼしてしまうことだってあるのです。
但し、実際の医療現場では、『傷の中に細菌が10万個あるかどうか』を直接確認することはなかなか難しいですから、炎症の徴候:「腫脹」「発赤」「疼痛」「熱感」などの有無で、その傷が「感染状態」にあるかどうかを確認することが大切になってきます。