高校時代から大学時代、ボクシングをやっていました。
初めは兄の影響ではじめたボクシングでしたが、アマチュアといえど、その掛け
合いがなかなか面白いのです。大学ボクシング部のみならず、ジムにも所属して
いたくらいです。
私は、小さな頃に剣道を習っていて、とても厳しい剣道場に通っていました。終始
の礼から道場の雑巾掛け、気が緩んでいると“ケッパン”といわれる小さな竹刀で
袴の上から思い切りお尻を打たれました。小さいながらに、いつも身が引き締まる
思いで練習をしていた記憶があります。特に厳しかったのは、寒特(冬になると山
や川など寒冷地まで行って竹刀を振る)という“耐寒特訓”という行事でした。でも、
そうしてつらつらと思い返してみると、厳しくても、辛かったという思い出が全くと
いって良い程ないのが、不思議です。頑張って続けた剣道は、有段で大阪府下四
位までいったのですが、受験のため断念して休止—多分、勝負の真剣さや、心の
緊張感がとても好きだったのだろうと思います。
で、なぜ、途中からボクシングになったかと言うと、精神論の根底に共通したもの
があったのだと思います。但し、ルールからスタイルまで、東洋と西洋でそれぞれ
が独自に発展したものですから、全く違う。違うというより寧ろ何もかもが“逆”に近
いのです。まず、軸足と構えが反対。剣道は踏み込むための右足と右手が前、体
の右側面を相手側に向ける形になります。これがボクシングの基本スタイルでは
左足と左手が前、左側面を半身に相手側に向ける形です。利き手(多くの場合で
右手)は後ろになって、ジャブで迎え撃つ方の左手が距離感を測るため前になりま
す。剣道は摺り足ですが、ボクシングでは拳を繰り出すとき以外は、跳ねる動きに
近いフットワーク。線の動きと回転運動。ボクシングを始めた当初はここまで違うも
のなのかと、かなり戸惑いました。(小手とグローブの形なんて本当よく似ているの
に。)でも、仲間や後輩の助けもあって、有意義にボクシングにのめり込む事がで
きました。そして、国家試験も真剣味を帯びてくる大学5年生の秋、実習講義など
で細かな作業をしようとすると小刻みに指先が震えることに気付きました。それも
集中しようとすればする程に震えは大きくなります。
えっ―!?
念のためにすぐに大学病院へかかりました。よくよく話を聞いてみると、それは脳に
よるものではなくて、拳の使い過ぎによる疲労痙攣だと言う事でした。ほっと胸を撫
で下ろしたものの、もうすぐ国家試験・・・実習どころか、大事な治療や手術のときに
指が震えたらと思うと、ボクシングを続けていく事が困難だということに否応を付け
ることができませんでした。なんなく試験を終え、専攻に口腔外科を学び、振り返っ
てみるとあれからもう10年が経ちます。今はこれといって体を動かすことはありませ
んが、またボクシングがしたい―たまにそんな衝動に心駆られるこの頃です。