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『お茶を噛む』 ひと 2011.08.25更新
その昔は、スペインの統治がすすんでいたメキシコ自治州を旅していたときのこと。
何処へ行く途中だったのか、もう忘れてしまいましたが、長い道中、車内の後部座席
で座っていた私がペットボトルのお茶を飲んだのを見て、隣りにちょこんと座っていた
友人がくすくすと笑い出しました。私は、笑われていることに何か気恥ずかしくなって、
いま何を笑ったのかとムキになって訊くと、曰く、「Muerde el té por alguna razón.」
と言うのです。直訳すると『あなたはお茶を噛む。』と言ったところでしょうか。少なか
らず、彼が知っている日本人はみんな大抵 “お茶を噛む” のだそうで。どういうことかと
言うと、何もお茶だけではなく、水やジュースでも同じことで、飲み物を喉に流し込むと
きに、上下の歯がカチカチと当たって音が鳴ることが、液体をさも噛んでから飲み込ん
でいるように感じられて面白いのだそうです。
実は彼の言う、大抵の日本人は・・・と言うフレーズの裏には、アジア人と西洋人に
おける頭蓋骨格と嚥下層(食べ物を喉に押し込むときの、舌や口の周囲筋肉の動き)
に違いがあるのです。通常、食べ物を飲み込むときの口の動きは2パターンに分か
れます。1つは成熟型嚥下といって、飲み込むときに軽く上下の歯が接触し、あごは
わずかに後方にずれます。このとき、舌は高位で口蓋(上あごの内側)に付いて波状
運動をし、唇はこれら一連の動きに影響されません。そして、もう1つは幼児型嚥下
といい、飲み込むときに下あごをやや前に突き出すため、上下の歯は成熟型嚥下と
は対称的に前へ突き出る格好となります。舌は低位で下あごの内で丸まり、唇はす
ぼむ。このとき、上下の歯は不定期に接触します。後者はあご骨の成長と共に、飲み
込むという動作を、唇の筋肉から舌の下部にある筋肉にバトンタッチすることで消失
していくものです。そういう意味から思春期を過ぎて、“ハイ、唾を飲み込んでみて。”
と言ったときに、唇をすぼませなければ、唾液を飲み込めない人は要注意です。幼児
型嚥下が長引き、名残ることで歯並びや発音に大きく影響することがあるからです。
もちろん、私も幼児型嚥下をする訳ではないのですが、西洋人に比べて日本人(大
きくは、モンゴロイドと言われるアジア人全体)はあごが小さく、口のなかの上下的
スペースも低く、狭く出来ています。そのため、食べ物を喉に追いやる作業の流れ
のなかで、舌はとても窮屈な動きを強いられるのです。ですから、嚥下するという作
業のなかで、あごの小さい者は少しかみ合わせを開放するプロセス(要は、口を少し
開く状態)を多くすることで、食べものの塊や流動体を飲み込みやすくしているので
すね。結果、カチカチと上下の歯が接触しやすくなるということです。それが、サラ
サラしたお茶などの飲み物で顕著になり、あたかも “噛んでいる” ように聞こえ、見え
るのではないでしょうか。
考えてみれば、お香なら 『香り・匂いを聞く』 ものなのかも知れません。決してそん
な崇高な意味合いはないのですが、お茶を飲むときはときどき『お茶を噛んでいる』
と、青かった日々とともに思い出すのです。

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